どうも、ノマドクリエイターのショウヘイ( @shonei_creator )です。
人が好む物語の1つに『行きて帰りし物語』があります。
行きて帰りし物語は、世界中の神話・民話に多く見られる物語構造です。
世界中で大ヒットしたスターウォーズの監督ジョージ・ルーカスは、行きて帰りし物語の構造を利用して、スターウォーズを作ったそうです。
行きて帰りし物語の構造を使えば、万人受けする物語を作りやすくなると言えますね。
今回の記事では、この『行きて帰りし物語』について説明します。
世界中で愛される『行きて帰りし物語』とは
行きて帰りし物語とは、大まかに言えば『主人公が日常から非日常の世界に旅立ち、試練を乗り越えて成長と遂げて、また日常に帰ってくる』という構造を持っています。
この構造は、数多くの神話に共通して見られるものの1つです。
行きて帰りし物語の構造には、さまざまな段階があります。
分類方法によって、8段階・12段階・17段階と分けられます。
共通する大まかな段階は、次の通りです。
- 日常世界
- 冒険の誘いと拒絶
- 賢者と遭遇
- 異世界へ越境(関門の突破)
- 仲間・敵対者・小さな試練と遭遇
- 危険な場所へ接近
- 最大の試練を乗り越える
- 報酬を得る
- 日常へ帰還
これから、それぞれの段階の意味を説明していきます。
最後に、行きて帰りし物語の具体例として、スタジオジブリの名作『千と千尋の神隠し』を紹介します。
日常世界
物語の序盤に展開される、主人公が元々いた日常の世界です。
日常の世界では、主人公の家族や友人が登場します。
日常の世界の穏やかな様子を描写して、これから主人公が向かう非日常の世界(異世界)の異質さを強調します。
また、主人公が旅立つ動機となる欠落は、この日常の世界の段階で起こりやすいです。
冒険の誘いと拒絶
伝令を伝える使者や『異世界の存在』が登場して、主人公を冒険へ誘おうとします。
もしくは、日常の世界が崩壊して、主人公が否応なしに冒険へ駆り出される事態に陥ります。
基本的には、主人公は冒険へ出ることを嫌がり、断ります。
しかし、止むにやまれぬ事情が起きるので、主人公は旅立つことになります。
旅立ち=自ら変化に向かうことは、主人公の成長(自己実現)の第一歩を象徴します。
賢者と遭遇
主人公は、旅の道すがら、冒険を手助けする賢者に出会います。
この賢者は、主人公を守るマジックアイテムや有益な情報などを渡してくれます。
具体例は、シンデレラにドレスやカボチャの馬車を贈った魔女(フェアリーゴッドマザー)です。
異世界へ越境(関門の突破)
主人公は、異世界の境界を渡ります。
境界の象徴として、門や門番(衛兵や魔物)が登場することが多いです。
仲間・敵対者・小さな試練と遭遇
異世界に入ると、主人公に様々な出会いが訪れます。
多くの仲間が現れ、そして敵も登場します。
また、仲間と敵に関わる過程で、いくつかの小さな試練に直面します。
最も危険な場所へ接近
この段階では、何かの目的(多くの場合、価値ある宝を取りに行く)のために、主人公は危険な場所へ向かいます。
最大の試練に直面する前には、展開が複雑化する傾向があります。
たとえば、道が途切れていたり、予期せぬ敵に襲われたりなど、何かしら問題が起こります。
最大の試練を乗り越える
この段階で、主人公は命を落としかねないほどの試練に直面します。
物語のクライマックスシーンです。
心理学の観点から見ると、最大の試練において、主人公は自分のシャドウ(=抑圧している欲求・認めなかった本音)と向き合うことになります。
そして、主人公はシャドウを受け入れる(抑圧した欲求を認める)ことによって、新たな生命として生まれ変わります。
報酬を得る
外的な目的として、主人公は報酬を得ます(霊薬・姫・財宝など)。
この報酬自体は、主人公が旅に出るキッカケに過ぎません。
日常へ帰還
異世界での目的を果たし、主人公は帰路に着きます。
神話では、主人公の帰還に際して、何かしら妨害が入ります(追跡者の襲撃など)。
行きて帰りし物語の具体例:千と千尋の神隠し
それでは、行きて帰りし物語の具体例として『千と千尋の神隠し』の内容を紹介します。
日常世界
主人公である千尋は、小学4年生10歳の少女です。
両親と一緒に、引っ越し先の家に向かうところから、物語は始まります。
山道に迷い込んだ千尋一家の前に、朱塗りの建物が登場します。
その建物の壁には、トンネルが空いています。千尋はトンネルを通ることを嫌がりましたが、両親はトンネルの奥へ行ってしまいます。
千尋は、慌てて両親の後を追います。
トンネルを抜けると、野原が広がっていました。
父親が食べ物の匂いに気付き、さらに野原の奥へ進んでいきます。すると、料理屋が並ぶ商店街に到着します。
両親は店先のカウンターに座り、勝手に料理を食べ始めます。
千尋は食べることを嫌がり、商店街の散策に出掛けます。やがて、遠くに油屋の建物を見つけます。
すると、千尋の前にハクという少年が現れ「ここに来てはいけない。すぐに戻れ!」と怒鳴られます。
千尋が両親の元へ戻ると、両親は豚になっていました。
千尋が迷い込んだ世界は、八百万の神々の世界です。神の料理を勝手に食べた両親は、罰として、豚にされてしまったわけです。
両親が豚になってしまったことで、千尋の中に『人間としての両親を失った』という欠落が生まれます。
これにより、千尋に『両親を元の姿に戻す』という動機が生まれ、旅立ち(油屋で働く)につながります。
千尋は両親の変身に混乱して、その場から逃げ出します。
くぐり抜けたトンネルを目指しますが、野原にあった小川は海に変わっていて、先に進むことが出来なくなっています。
海から船が着岸して、神々がゾロゾロと降りてきます。
千尋が「夢だ、夢だ」と自分に言い聞かせていると、自分の体が透明になりつつあることに気付きます。
そこに、ハクが再登場して「怖がるな、私はそなたの味方だ」と語りかけてきます。
冒険の誘いと拒絶
ハクは「口を開けて、これを早く。この世界の物を食べないと、そなたは消えてしまう」と言って、千尋に豆のような食べ物を差し出します。
この時、千尋は『自分も豚になるのではないか』と思い込み、食べることを拒否します。
しかし、ハクが「大丈夫、食べても豚にはならない。噛んで飲みなさい」と言ったので、千尋は差し出された食べ物を飲み込みます。
すると、千尋の体の透明化が止まり、元の肉体に戻りました。
ハクは、この世界の食べ物を食べるように促します(冒険の誘い)。
しかし、千尋は、いったん食べ物を拒否しました(冒険の拒絶)。
しかし、千尋が食べ物を口にしたことで、旅立ちは確定的なものとなりました。
賢者と遭遇
ハクは、千尋を油屋につれて行きます。
油屋は、湯婆婆(ゆばーば)という魔女が経営している温泉宿です。さまざまな八百万の神々が湯治にやってきます。
この異世界では、仕事を持たない者は、湯婆婆に豚や石炭に変えられてしまいます。そこで、ハクは千尋を湯婆婆の元へ行かせようと考えたわけです。
千尋はハクの指示に従い、油屋の裏手から回って、ひとまずボイラー室を目指します。
千尋がボイラー室にたどり着くと、 6 本の長い手を自在に操るボイラー技師の釜爺(かまじい)と出会います。
千尋は釜爺の助言に従って、油屋の一番上の階にいる湯婆婆に会いに行こうとします。
異世界へ越境(関門の突破)
千尋は湯婆婆に会うと、油屋で働かせもらえるように頼み込みます。
しかし、湯婆婆は、千尋の頼みを断り、相手にしません。
千尋は湯婆婆の態度に怖気づかず、何度も頼み込みます。
その結果、湯婆婆は千尋の方へ契約書とペンを飛ばして「契約書だよ。そこに名前を書きな。働かせてやる」と言います。
千尋が契約書に名前を書き終わると、契約書が自動的に飛び立ち、湯婆婆の手に収まります。
湯婆婆は「千尋というのかい? 贅沢な名だねぇ。今からおまえの名前は千だ」と言って、署名欄の『千尋』から『荻野』と『尋』を浮かして取り除きました。
仲間・敵対者・小さな試練と遭遇
油屋で働くことになった千尋には、数々の出来事が起こります。
全身から恐ろしいほどの悪臭を放つ『腐れ神』の接客を任せられたり、
負傷している白竜(ハク)に苦団子を食べさせて、契約印(湯婆婆の命令で、姉の銭婆(ぜにーば)から盗んできた物)を吐き出させたり、
暴走したカオナシに追いかけられたり、
それらを乗り越えていく過程で、千尋は精神的に成長します。
日常世界にいた時と比べて、顔つきは凛々しくなりました。また、自分の判断で積極的に動くようにもなります。
最も危険な場所へ接近
千尋は、銭婆に契約印を返しに行くことを決意します。銭婆に頼んで、ハクを助けてもらうためでもあります。
釜爺から「あの魔女はこえーぞ」と教えられますが、決意は変わりません。
海を渡る電車の乗車切符を釜爺から受け取ると、湯婆婆の住む家に向けて旅立ちます。
最大の試練を乗り越える
千尋は、ようやく銭婆の家に到着します。
千尋が銭婆を尋ねると、銭婆は温かい態度で迎え入れてくれます。
そして、千尋は契約印を銭婆に返せました。
銭婆は好意的であり、千尋を助けたいようですが「おまえを助けてあげたいけど、あたしにはどうすることも出来ないよ。この世界の決まりだからね。両親のことも、ボーイフレンドの竜のことも、自分でやるしかない」と言います。
その後、千尋が油屋に帰ろうとした時、お守りとして髪留めを贈りました。
その頃、千尋を迎えに、竜化したハクが銭婆の家にやって来ます。
千尋はハクの背に乗って、油屋に帰りました。
報酬を得る
油屋へ帰る道中、千尋は幼いころのことを思い出します。
そして、ハクに告げます。
……ハク、聞いて。お母さんから聞いたんで自分では覚えてなかったんだけど、私、小さいとき川に落ちたことがあるの。
その川はもうマンションになって、埋められちゃったんだって……。
でも、今思い出したの。その川の名は……その川はね、琥珀川。あなたの本当の名は、琥珀川……
千と千尋の神隠し © 2001 Studio Ghibli ・ NDDTM
その直後、ハクの竜鱗が剥がれ落ちて、人間の姿に戻ります。
千尋の発言のおかげで、ハクは本来の名前を思い出すことが出来ました。
これで、ハクは『名前を奪われる』という湯婆婆の支配から脱しました。
千尋とハクが油屋の前に戻ると、湯婆婆と従業員たちが待っていました。
湯婆婆は千尋に対して、目の前の豚の中から千尋の両親を言い当てられたら、契約破棄して自由にすると言います。これは、坊を連れて帰ってくる対価として、ハクが湯婆婆に取り付けた約束です。
千尋は豚の群れを見回して「おばあちゃんだめ、ここにはお父さんもお母さんもいないもん」と言います。
湯婆婆が「いない!?それがおまえの答えかい?」と念押しするも、千尋は自信を持って頷きます。
すると、湯婆婆が持っている契約書が一瞬で燃えます。
豚が従業員の姿に戻り(従業員が豚に化けていた)、高らかに「大当たり~!」と叫びます。さらに、あちこちから歓声が上がります。
日常へ帰還
晴れて、千尋は自由の身となりました。
千尋はハクと一緒に、この世界にやって来たトンネルを目指します。
野原の小川の前で、ハクは立ち止まって「私はこの先には行けない。千尋は元来た道をたどればいいんだ。でも決して振り向いちゃいけないよ、トンネルを出るまではね」と言います。
千尋が「ハクはどうするの?」と問うと、ハクは「私は湯婆婆と話をつけて弟子をやめる。平気さ。本当の名を取り戻したから。元の世界に私も戻るよ」と返しました。
千尋はハクと別れて、ひとりトンネルへ向かいます。トンネルの前には、人間の姿に戻った両親が待っていました。
両親は何も覚えていない様子で千尋を迎えると、一緒にトンネルをくぐり抜けていきます。
トンネルをくぐり抜けると、日常世界の山道に戻ってきました。
千尋が後ろを振り返ると、朱塗りの壁だったはずのトンネルは、廃れたトンネルに変わっていました。
こうして、千尋は元いた日常世界に返って来られました。