どうも、ノマドクリエイターのショウヘイ( @shohei_creator )です。
ブログアシスタントのふーちゃんです。
小説の冒頭の書き出しって、迷いますよね。
冒頭の書き出しが面白くなかったら、読者に「この小説、なんか つまらなそうだな」と思われて、それ以降は読まれなくなります。
小説の冒頭で読者の興味を引けることは、その小説が最後まで読まれるかどうかを決めると言っても、過言ではありません。
今回の記事では、セールスレターの発想を混ぜつつ、読者の興味を一気に引き込む小説の冒頭の書き出しについて説明します。
セールスレターの観点から見ると、『文学作品の名作』の小説の書き出しは、参考にしちゃ駄目です。
昔と今では、娯楽環境が違いすぎます。
『文学作品の名作』とされる小説は、スロースタートが多いです。娯楽の少ない昔であれば、それでも大丈夫でした。
現代は、動画コンテンツを代表例に、多くの娯楽で満ちています。
変哲もない冒頭を書こうものなら、すぐに読者に飽きられますよ。
小説の冒頭の書き出しは「興味づけ」を重視すべし
商品について説明しつつ、読者の購買意欲を高める文章(またはページ)をセールスレターと呼びます。
セールスレターが分からなかったら、折り込みチラシだと思ってください。
セールスレターでは、読み手の興味を引くことを最も重要視します。セールスレターを見た人は、そもそも商品を買う気が少ない or 無いからです。
読み始めの段階で、読者から「どうでもいいや、興味ない」と思われたら、読み手はセールスレターから離脱します。
上記のことは、小説の冒頭の書き出しについても当てはまります。
小説の読者は、あなたの小説に、それほど興味が無いです。タイトルやあらすじで気になるところがあって、試しに本編を開いた段階です。
大半の読者は「どんな内容かな? ちょっと読んでみよう」という気軽な気持ちで、冒頭の書き出しを読もうとします。
小説の冒頭の書き出しで読者の興味を引けなかったら、読者から「つまらなそうな内容の小説」と思い込まれます。
もちろん、すぐに読むことを止めます。
「本編は面白いから、序盤が終わるまで読んで欲しい」
「冒頭だけで判断しないで欲しい」
そんな作者の事情は、読者には関係ありません。
読者に「つまらないな」と思われたら、もう終わりです。
小説の冒頭の書き出しは、いきなり特殊な状況を持ってきて、読者の興味をグッと引き付けなければいけません。
これは鉄則です。
小説の冒頭を面白くする書き出しの種類
小説の冒頭の書き出しは、読者の興味を引ける内容を書くべきです。
そこで、非日常の衝撃的な場面から始めましょう。
人が非日常的な情報に接すると、はじめにビックリします。
その次に、もっと知りたいという好奇心を抱きます。
人が好奇心を持つ情報は、以下の6種に分類できます。
どれもセールスレターで応用されているものばかりです。人の好奇心を刺激するうえで、強力な効果を発揮します。
- 恐怖(不気味・グロテスク・怪奇事件など)
- 反社会的(犯罪・禁止された物など)
- 謎(怪奇現象・意味深長な発言など)
- 闘争(乱闘・死闘・試合など)
- 珍事(笑いを誘う ありえない出来事など)
- 性的興奮(性的描写など)
それぞれの種類ごとに、冒頭の面白そうな書き出しの具体例を掲載します。
恐怖に関する冒頭の書き出し例文
怖いもの見たさ、という言葉があります。
『恐怖心を呼び起こす情報は、もっと知りたくなる』という人間心理を表した言葉ですね。
恐怖系の冒頭で、参考になりそうな書き出し具体例を見ていきましょう。
ハサミ男の三番目の犠牲者は、目黒区鷹番に住んでいた。
殊能 将之 (2002/8/9) ハサミ男 ( 講談社文庫 )
『ハサミ男』という不気味なキーワードから始まり、その次に『犠牲者』というキーワード、さらに犠牲者の具体的な住所も書かれています。
『ハサミ男』が物語の鍵となる殺人鬼であることが分かる一文です。
薄曇りの空には、数多くの鳶やカラスが、乱舞していた。
貴志 祐介 (2002/10) 青の炎 ( 角川文庫 )
鳶(とんび)やカラスが数多く飛び交っている光景は、いかにも不吉な予感を覚えます。
本作が主人公の殺人劇ということもあり、「鳶やカラスの近くに、死体が転がっているのではないか?」という印象を受けます。
ある朝グレゴールザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹のとてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。
フランツ・カフカ( 1952/7/28 ) 変身(新潮社)
目覚めたら、自分が毒虫に変身していた……という衝撃展開から始まります。
この一文を読んだだけで、「この後、どうするの !? 」と思いますよね。
泥に深く穿(うが)たれたトラックの轍(わだち)に、ちいさな女の子が顔を突っ込んでいるのが見えた。
まるでアリスのように、轍のなかに広がる不思議の国へ入っていこうとしているようにも見えたけれど、その後頭部はぱっくりと紅く花ひらいて、頭蓋の中身を空に曝(さら)している。
伊藤 計劃( 2010/2/10 ) 虐殺器官(ハヤカワ文庫 JA )
一文目で、小さな女の子がトラックの轍(タイヤが地面を通った跡)に顔を突っ込んでいる……という奇怪な描写が入ります。
その次の二文目で『後頭部はぱっくりと紅く花ひらいて』と書かれており、痛ましい事故現場であることが発覚します。
事務所のドアを開けると、部屋の真ん中に死体がひとつぶら下がっていた。
笹木稜平 恋する組長(光文社文庫)
何気なくドアを開けたら、いきなり目の前に死体がぶら下がっている。
もしも現実で起きたら、かなり衝撃的な場面ですね。我が目を疑って、数秒は思考停止すると思います。
反社会的な冒頭の書き出し例文
人間には、禁止されたことを実践したくなるという心理があります。心理学では、これをカリギュラ効果と言います。
社会的に『悪』として規制されていることに対して、人間は興味津々になるということですね。
社会的な『悪』は、殺人・傷害・強盗・麻薬・破壊・暴動などが挙げられます。
反社会的な冒頭の書き出しで、参考になりそうな具体例を見ていきましょう。
左手の指先にかすかな痛みがあった。もちろん、そんなはずはない。俺はもう、すべての両手足を失っているからだ。
丸野裕行( 2013/2/12 ) 木屋町 DARUMA (株式会社オトコノアジト)
三文目の『俺はもう、すべての両手足を失っているからだ』という表現は目を引きます。
どのような理由でそうなったか分かりませんが、事故にせよ事件にせよ、異常性の高さがうかがえます。
死体の数をいくつにするか。まず、それから考え始める
秦 建日子( 2005/12/21 ) 推理小説 ( 河出文庫 )
こちらの小説は、『死体の数をいくつにするか』という不穏な書き出しです。
ただの犯罪者ではなく、故意に殺人を犯そうとしている異常者であることがうかがえます。
桜の樹の下には屍体が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。
梶井 基次郎 (2012/9/27) 桜の樹の下には
『普段目にしている桜の木の下に、実は死体がある』と聞かされると、何やらゾッとさせられます。
綺麗な桜と屍体(したい)の組み合わせが生み出す意外性も魅力です。
中学二年生の一年間で、あたし、大西葵十三歳は、人をふたり殺した。
桜庭 一樹 (2007/12) 少女には向かない職業 ( 創元推理文庫 )
こちらは、中学生でありながら、すでに人を二人も殺しているという告白から始まります。
年若い人物が殺人したとなると、闇の深い事情を感じさせられますね。
謎に関する冒頭の書き出し例文
ミステリー作品では、『冒頭に死体を転がせ』と言われますよね。
これは、衝撃的な事件で読者の興味を引いて、さらに『なぜ、そうなったのか?』という好奇心をくすぐるためです。
思わず理由を追求したくなる謎は、それだけで人の興味を引き付けます。
謎を匂わせる書き出しで、参考になりそうな具体例を見ていきましょう。
八月のある日、男が一人、行方不明になった。
休暇を利用して、汽車で半日ばかりの海岸に出掛けたきり、消息をたってしまったのだ。
安部公房( 2003/03 ) 砂の女 ( 新潮文庫 )
一文目で、いきなり男性が行方不明になったことが書かれています。
この男性は殺されたのか、誘拐されたのか、自ら失踪したのか……色々と想像を巡らせたくなります。
さっき、”私”が死んだ。二、三分前の事だ。正確にいえば、五年と八ヶ月二十六日十四時間余り前の事になる
小松 左京 (2000/5) 虚無回廊〈 1 〉 ( ハルキ文庫 )
こちらの書き出しでは、『私が死んでから、2~3分前のこと』と書かれた次に『5年と8ヶ月26日14時間あまり前』と続きます。
思わず「え、どういう意味?」と言ってしまいそうになりますね。
――君、ダイナマイトは要らないかね?
山川方夫( 1991/5/17 )夏の葬列 ( 集英社文庫 )
この一文を読んで、ふと【マッチ売りの少女】を思い出しました。
どういう状況で「ダイナマイトを要らないか?」と尋ねているのか、とても気になります。
僕はまだ子供で、ときどき、右手が人を殺す。その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう。
森博嗣( 2004/10/1 ) スカイ・クロラ ( 中公文庫 )
『子供なのに人を殺す』という意外性。
『右手が人を殺す。その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれる』という奇怪な言い回し。
この先の文章が気になりますね。
学校から自転車で五分足らずのところに、世界の終わりが見える場所がある。
杉井光 ( 2012/10/25 ) 終わる世界のアルバム(メディアワークス文庫)
学校という、とても身近で日常の象徴。
そこから自転車で5分足らずで行ける『世界の終わりの見える場所』とは、いったいどんな場所なのでしょうか?
日常と非日常を組み合わせることで生まれる意外性が魅力です。
闘争に関する冒頭の書き出し例文
事件性の高い展開の一例と言えば、戦闘場面ですね。
派手な戦闘場面は、それだけで視聴者を楽しませる娯楽になりえます。
戦闘場面の書き出しについては、ドンピシャのものが見つかりませんでした。
そこでライトノベルの中から、参考になりそうな書き出しを紹介します。
坂井悠二は、怪物に食われつつあった。
それは、日常から、わずか五分の距離。
高橋弥七郎( 2002/11/8 ) 灼眼のシャナ( KADOKAWA )
こちらは、『灼眼のシャナ』の冒頭の書き出し。
主人公の坂井悠二が怪物に食われつつあるところから始まります。
衝撃展開から始まりつつ、戦闘場面の幕開けを感じさせます。
「ええい ! くそっ ! くそっ ! あーもうちくしょうー不幸すぎますーっ ! 」
我ながら変態じみた叫び声だと思いつつも上条当麻は凄まじい逃げ足を止めようとしない
鎌池 和馬( 2004/4/10 ) とある魔術の禁書目録( KADOKAWA )
とある魔術の禁書目録の冒頭の書き出しです。
いきなり、主人公の上条当麻が必死に逃げている場面から始まります。
チンピラから逃げているわけですが、主人公が逃げている描写が入れると、『何者かと戦闘している』と読者は受け取りやすいですね。
珍事に関する冒頭の書き出し例文
冒頭の書き出しに『笑いを誘うような出来事』を使う方法です。
人間は面白いことが大好きなので、『この先にさらなる面白さが待っている』と思ったら、さらに情報を求めようとします。
冒頭の面白い書き出しで、参考になりそうな具体例を見ていきましょう。
私は正午頃、干し草を運んでいるトラックから外に投げ出された。
ジェームズ・ M ・ケイン(原著)田口俊樹(翻訳) 2014/8/28
郵便配達何度ベルを鳴らす(新潮社)
牧場に行く途中の曲がり角で、この登場人物は振り落とされたのでしょうか?
「どんな状況なの?」と気になってしまいます。
お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。咬みません。躾のできたよい子です。
有川 浩( 2013/1/11 ) 植物図鑑 ( 幻冬舎文庫 )
映画化もされた、大人気小説の植物図鑑。
まるで捨て犬のような言い回しで、自分を拾ってくれと言うイケメンが登場します。
意外性にあふれた、素晴らしい書き出しですね。
結婚して、今のアパートに住み移ってしばらくしたころ、私はその事実に気づき、早速仕事から帰ってきた旦那に報告した。
「隣の大家さん、宇宙人かもよ」
小林めぐみ( 2004/08 ) 食卓にビールを(富士見書房)
一体全体、大家さんの何を見てしまったのか。
疑問と興味の尽きない書き出しですね。
死神たちはミュージックに夢中だが、もちろん人間には興味がない。
伊坂 幸太郎( 2005/6/28 ) 死神の精度(文藝春秋)
死神なのに、『もちろん人間には興味が無い』という意外性が効いています。
「いや、人間の魂を刈れよ」とツッコミを入れたくなるような書き出しですね。
性的興奮に関する冒頭の書き出し例文
これは、実際の性描写または性的な展開を匂わせる方法です。
性欲は三大欲求の1つなので、有効に活用できれば、強力な書き出しを作れますね。
性的興奮に関して、参考になりそうな冒頭の書き出し具体例を見ていきましょう。
カナは十七歳だけど、もう男の人とベッドに入ることを日常にしている。
山田 詠美 (1995/3) 放課後の音符 ( キイノート ) ( 新潮文庫 )
一文目から早熟な性生活にあふれた書き出しです。
辻斬りのように男遊びをしたいな、と思った。ある朝とつぜんに。そして五月雨に打たれるように濡れそぼってこころのかたちを変えてしまいたいな。
桜庭一樹( 2009/3/11 ) 少女七竈と七人の可愛そうな大人( KADOKAWA )
こちらの書き出しは、自暴自棄になって火遊びに興じようとしている……という危うさを漂わせていますね。
射精したあとは動きたくない。相手の体に覆いかぶさったまま、押し寄せてくる眠気を素直に受け入れたい。
以前歯医者の待合室で読んだ女性週刊誌に、後戯のないセックスはデザートのないディナーようふふ、というようなことが書いてあったが、男から言わせてもらえれば、ふざけるなバカヤローである。射精した直後に乳など揉みたくない。たとえ相手がジェニファー・ロペスであってもだ。男という生物の体は、エデンの昔からそうできている。
歌野 晶午( 2007/5/1 ) 葉桜の季節に君を想うということ ( 文春文庫 )
『射精』『セックス』『乳』という性的キーワードが散りばめられています。
小説の冒頭の書き出しは、「世界観の説明」や「平穏な日常場面」を書くな!
小説の冒頭の書き出しは、読者の興味を引くことが重要です。
言い換えれば、小説・ラノベ冒頭の書き出しに『世界観の説明』や『平穏な日常場面』を書くことは厳禁ということです。
たとえば、こんな冒頭の書き出しは駄目です。
この世界の名前は、ユリバーン。創造神ユリウスによって、今から3億年前に生み出された。
ユリバーンでは、人類の他にも、エルフやドワーフ、リザードマンなどの亜人種が住んでいる。また、ゴブリンやオーガのように、知能は低いが狂暴な魔物も生息している。
人類の大半は、貿易都市ナルビクで生活している。ナルビクは、湾岸の巨大都市だ。数多くの船舶が停泊できる巨大な港があるため、古くから貿易港として栄えていた場所だ。
主人公の●●は、▲▲高校に通う高校生だ。成績は平凡だが、運動神経は良い方で、体育は得意科目だ。しかし、スポーツよりもゲームで遊ぶ方が好きなので、部活には入っていない。いわゆる帰宅部だ。
●●は朝食を済ませると支度を済ませ、家を出た。見慣れた通学路を歩く。今日は気持ちのいいほどの快晴だ。洗濯物を干すには、絶好の天気と言えよう。
●●は、通学路の途中にあるコンビニに立ち寄った。いつも、昼食は、このコンビニで買っている。大半の弁当や総菜パンは食べてしまったので、何か新商品の弁当や総菜パンが売っていないか確認するのが日課だ。
小説の冒頭の書き出し段階で、読者に「この小説は面白そうだ!」と興味を持たれないと駄目です。
冒頭の書き出しを読んだ読者が「この物語は面白くないな」と判断したら、その後は『面白くない物語』という偏見を持たれます。
こうなると、小説を最後まで読まれなくなります。
小説投稿サイトの場合であれば、ブラウザバックされてしまいます。
きちんと最後まで読んでもらいたいなら、小説の冒頭の書き出しには、読者の興味を引ける場面を持ってきてください。
小説の序章(プロローグ)に衝撃的な場面を持ってくるべし
小説の冒頭に平穏な日常場面を書きたいなら、序章(プロローグ)に衝撃的な場面を持ってきて、本編を回想形式にしてください。
本編の前に挿入する、独立した章。
本編から切り離されているので、時間の流れ(過去→未来)や前後の場面展開に縛られない。
登場人物の夢や空想、絶望的な状況、平和な後日談など、さまざまな場面を書けることが強み。
小説の物語は、過去から未来に向かって展開されます。
問題(敵の出現や事件の発生)は、序盤半ば~中盤に起きるものです。冒頭は、平穏な日常場面を書きたくなるでしょう。
しかし、平穏な日常場面なんて、読んでいて退屈です。もたもたしていては、読者から「この小説は面白くない」という烙印を押されます。
そこで、序章という扱いで、冒頭に衝撃的な場面を持ってきてください。本編は、時間をさかのぼらせて、平和な日常場面から書き始めます。
つまり、本編を回想に使うわけです。
小説の冒頭で読者に興味を植え付けられて、かつ本編を時系列順に展開できます。
「有名な文学作品」は冒頭の書き出しの参考にならない
小説の冒頭の書き出しに悩む人の中には、有名な文学作品の書き出しを見ようとする人が多いようです。
名が広まるほどの作品なのだから、その冒頭の書き出しを見れば、何か参考になると考えているのでしょう。
ハッキリと言いますが、文学作品の冒頭の書き出しは、あなたが見ても参考になりません。
それどころか、読者を逃がす下手くそな書き出しが身につきます。
昔と違って、現代は動画コンテンツやゲームコンテンツのように、刺激量の多い手軽な娯楽に満ちています。
文学作品のように、ありふれた日常風景や詩的な描写から書き始めていたら、読者は「なんか退屈そう」と思って、どこかに消えてしまいます。
文学作品の書き出しは、日常の何気ない一場面を切り取ったものが多いです。得てして、詩的で儚げな印象を漂わせます。
言い換えれば、パッとした面白味が無いですし、表現が曖昧で回りくどいです。
現代のように、明確な面白さと分かりやすさが求められる娯楽市場では、まったく通用しません。
動画コンテンツやゲームコンテンツと戦うことを考慮してください。
たとえるなら、文学作品の冒頭の書き出しは、早朝の散歩のようなものです。
早朝の清らかな空気を吸う散歩は、爽やかな気分にしてくれます。
でも、多くの人々が好む刺激は、夜更かしのゲームで遊んだり、飲み会やカラオケ店で騒いだりする方です。
刺激が大きいし、単純明快な楽しさがあるからです。
文学作品の名作としては、たとえば、安倍公房の【壁】が代表的でしょうか。
けれど、冒頭の書き出しは、別に面白くもなんともありません。
朝に起きたことが分かるだけですし、奥歯に物が挟まったような言い回しが鬱陶しいです。
目を覚ましました。
朝、目を覚ますということは、いつもあることで、別に変ったことではありません。しかし、何が変なのでしょう? 何かしら変なのです。
安倍公房( 1969/5/20 ) 壁(新潮文庫)
こちらは、村上龍の【限りなく透明に近いブルー】の冒頭の書き出し。
単に羽虫が部屋の隅に飛んで行ったというだけで、面白みが無いです。夏になれば、嫌でも目にするような光景です。
飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蝿よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回して暗い部屋の隅へと見えなくなった。
村上龍( 2009/4/15 ) 限りなく透明に近いブルー(講談社文庫)
最後に、芥川賞を受賞した【蹴りたい背中】を紹介します。
個人的には、言葉の言い回しや文章の響きは好きです。
しかし、この書き出しのみを切り取って、その辺を歩いている人に見せても、興味を抱かれることは無いでしょう。
さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。
綿矢りさ( 2007/4/5 ) 蹴りたい背中(河出文庫)
純文学のような小説を目指すのであれば、先ほどの書き出し例は参考になるでしょう。
しかし、大衆小説やライトノベルのように、娯楽性を追求する小説を目指すのであれば、日常場面の詩的な書き出しは厳禁です。
『文学作品の名作』と言われているからといって、なんでもかんでも優れていると思い込まないように、気をつけてください。
昔と今では、娯楽環境が違いますから。
小説の上手な冒頭を書くための7つのテクニック
ここまで説明してきたことを踏まえて、小説の上手な冒頭を書くための7つのテクニックを紹介します。
この7つのテクニックを意識すれば、あなたの小説の冒頭は、劇的に改善されます。
冒頭の書き出しテクニック1:主人公が誰なのか明らかにする
物語の早い段階で、主人公を登場させておきましょう。
主人公は物語の中心であり、読者が自己投影・感情移入する対象です。
早い段階で主人公が誰か分からなければ、読者は誰に注目すればいいか分からなくなります。
また、主人公の人物情報……たとえば年齢・身分・職業・友人関係・家族構成なども明らかにしておきましょう。
これらは、読者が主人公に共感するための情報です。読者が主人公に親近感を抱けば、人間としての関心を寄せてくれます。
可能であれば、主人公が大事にしている宝物を読者に伝えておきましょう。人でも物でも構いません。
その宝物が失われるような事件が起きれば、主人公が当惑して激情に駆られた時に、読者が感情移入しやすくなります。
物語のテーマに『主人公の成長』が関わるのならば、主人公の欠落を匂わせられれば上出来です、
主人公が何を欠落しているのか気になって、読者は関心を寄せます。
冒頭の書き出しテクニック2:どんな世界観で、どこが舞台なのか明らかにする
物語の早い段階で、どんな世界観なのか、どこを舞台にしているのか明らかにしておきましょう。
世界観や舞台の情報は、読者が物語の内容を理解するための基盤です。これらの情報が少なすぎると、物語の展開から読者が置いてけぼりになります。
さらには、登場人物に対して、読者が感情移入しづらくなります。心の距離が離れている登場人物が右往左往していても、読者の心はピクリとも動きません。重要人物が死んだところで、「ふーん」で済まされてしまいます。
冒頭の書き出しテクニック3:敵役を登場させて、対立を予感させる
主人公と明確に敵対する人物・組織が登場するなら、軽くでもいいので、早めに描写しておきましょう。
早い段階で敵役が登場すれば、読者は「こいつが敵役なんだな」と認識します。
読者の頭の中で、物語の対立構造が出来上がるので、展開を理解してもらいやすくなります。
敵役は、主人公の前に姿を現す必要はありません。主人公が、敵役の名前や事件の痕跡を知る程度でも大丈夫です。主人公から視点を移し、敵役が悪事を働く場面を描いてもいいでしょう。
重要なのは、読者が敵役の存在を認識することです。
冒頭の書き出しテクニック4:無駄な場面描写を書かない
物語の展開に関与しない場面描写は、徹底的に削ってください。
主人公が朝に目覚めた場面から始まるとするなら、いちいち洗顔・食事の内容・食事の仕方・着替え・持ち物確認……というような場面は、描かなくて構いません。
『朝の支度をすませて、家を出た』という感じに、一気に省略しましょう。
冒頭の展開が遅いと、読者の興味が薄れていってしまいます。
冒頭で入れるべき場面は、次のようなものだけです。
- 主人公の性格・設定・周辺情報
- 世界観や舞台
- 読者の興味を引くための衝撃的な事件
- 敵役の存在
- 重要な伏線
冒頭の書き出しテクニック5:冗長な会話を描かない
物語の展開に関わらない世間話などは省きましょう。
誰かと会った時の必要最低限の会話は描いてもいいですが、「昨日どこに行ったか?」や「何か面白いスマホゲーム知らない?」のように、物語の展開に関係ない会話は、わざわざ描写する必要がありません。
冒頭の書き出しテクニック6:説明文は、必要最小限に
何かを描写する文章は、必要最小限を心掛けましょう。
説明文章が冗長だと、それだけ紙幅を使ってしまいます。また、冗長な文章は、読む側にとって苦痛をもたらします。
読者の興味付けが重要な冒頭では、なるべく少ない文字数で説明文章を書きましょう。
冒頭の書き出しテクニック7:情報を少しずつ提供する
複雑な設定(主人公の生い立ちや世界観など)を冒頭に書きたい場合は、情報を小出しにしましょう。
読者が物語を読み始めた段階は、予備知識の無い、まっさらな状態です。それなのに、いきなり冒頭で複雑な設定が長々と描かれていたら、情報を消化しきれなくなります。
特殊な世界観であったり、訳ありな主人公が登場する場合は、どうしても説明文章が長くなってしまいます。
いきなり全てを公開にするのではなく、展開が進むごとに少しずつ開示するようにしましょう。
小説の冒頭の面白い書き出しを効率よく学ぶ方法
小説の冒頭の面白い書き出しを書けるようになるには、多くの優れた具体例を目にして『こんな感じだな』という感覚をつかむことです。
そこで、小説家なろう日間ランキング上位作品をクリックして、応答に どんな書き出しが使われているか眺める方法をオススメします。
小説家なろう日間ランキング上位に掲載されるためには、読者が思わず興味を引かれるほど、強烈な小説タイトル・あらすじ・冒頭を書く必要があります。
つまり、ランキング上位作品には、冒頭で面白い書き出しが使われている確率が高いわけです。これらを見ていけば、無料かつ効率よく学べます。
具体例として、記事執筆時点の日間ランキングの掲載作品の中から、優れた冒頭の書き出しを抜粋します。
こちらは、【ありふれた職業で世界最強】のプロローグ。
主人公と思わしき少年が、大地の裂け目から落ちて、奈落を急降下中という絶望的(というよりも絶命的)な状況が描かれています。その後に、日常場面の回想に移ります。
読者は時系列で物語の展開を追えます。また、「どういう経緯で奈落に落ちる羽目になったんだ?」という疑問の答えが気になって、先を読み進めようとします。
暗闇の中、急速に小さくなっていく光。無意識に手を伸ばすも掴めるはずもなく、途轍もない落下感に股間をキュッとさせながら、南雲ハジメは恐怖に歪んだ表情で消えゆく光を凝視した。
ハジメは現在、奈落を思わせる深い崖を絶賛落下中なのである。目に見える光は地上の明かりだ。
ダンジョンの探索中、巨大な大地の裂け目に落ちたハジメは、遂に光が届かない深部まで落下し続け、真っ暗闇となった中で、ゴゥゴゥという風の音を聞きながら走馬灯を見た。
日本人である自分が、ファンタジーという夢と希望が詰まった言葉で表すには些かハード過ぎるこの世界にやって来て味わった不平等のあれこれと、現在進行形で味わっている不幸までの経緯を。
引用元:小説家になろう|ありふれた職業で世界最強|プロローグ
こちらは【最強剣士の Re :スタート】の第1話の書き出し。
いきなり、鬼のような姿の強敵と登場人物たちが戦闘する場面から始まります。仲間の2人が強敵の攻撃によって気絶し、残された手負いの2人が立ち向かおうとします。さらなる苦戦を予感させますね。
緊迫感のただよう場面が描かれているので、初見の読者の興味を引けることが期待できます。
俊敏に動いた『鬼人』に似た姿の、しかしそれよりもずっと大きな化け物の一撃。
それによって大賢者のアスタードが吹っ飛び、そしてそのアスタードに庇われる形となった聖女のイリエムも、余波によって吹き飛ばされる。
あの程度で死ぬ二人ではないが落下地点からピクリとも動かない所を見ると、どうやら意識を失ってしまったらしい。もう戦闘に加わることは不可能だろう、事実上の脱落だ。
『ガァァァァァァっ!』
二人を吹き飛ばし、威勢よく大音声を上げてこちらへと向き直る巨大な異形……まさに『仇為す者』と呼ばれるだけはある。頭部から生えていた二本の角の一つは砕け折れ、口から血反吐を吐き出しながら、それでもその目は爛々と強い光を放っている。そしてその目で残された二人の男たちを睨みつけていた。
引用元:小説家になろう|最強剣士の Re :スタート|第1話
小説の冒頭の書き出しが難しくて、どうしてもかけないなら
小説の冒頭を自力で考えることが難しくて、なかなか書けない……。
そんな時は、いっそ書き出しメーカーを使ってみたり、他人に書き出しを依頼したりするのも1つの手です。
小説の書き出しを自動生成してくれる診断メーカー
診断メーカーは、あなたが入力した適当な文字から、作者が事前に設定したキーワードをランダム抽出してくれるツールです。
小説の冒頭の書き出しに役立ちそうな診断メーカーをいくつか紹介しておきましょう。
この手の診断メーカーは、表示された書き出しをそのまま使うことはオススメ出来ません。
その書き出しの状況を参考にして、人・場所・世界観を自分の作品に当てはめてみるという使い方が良いでしょう。
たとえば、診断メーカーで「お前の家は、次の角を左に曲がってすぐ」と表示されたとします。『主人公が誰かに目的地の場所を尋ねている』という状況です。
自分の作品がファンタジー冒険ものであれば、この場合は『ギルドから【付近で怪奇事件の報告が絶えない廃墟】の調査依頼を受けた主人公が、通りすがりの住人に、その廃墟の場所を尋ねている』という筋書きを描けます。
そこから先は、主人公が道を歩いて廃墟にたどりつき、不気味な印象を感じつつ廃墟に入った直後に、何か事件が起きる……というように展開を繋げていきます。
小説の書き出しを誰かに丸投げする|書き出し .me
小説・ラノベ冒頭の書き出しを誰かに丸投げする方法もあります。
たとえば、書き出し .me というサイトは、書き出しのお題だけを自分で作って、実際の書き出しを他人にお願いできるコミュニティサイトです。
もちろん、相手が出しているお題を元にして書き出しを考えて、自分が書いた内容を相手に送ることも出来ます。
書き出し .me のログイン方法は、 Twitter 連携認証が採用されています。すでに Twitter アカウントを持っていれば、すぐに利用可能です。
自分が作ったお題の書き出しを手早く Twitter で募集できるのも便利ですね。
書き出しのお題は、 100 文字以内で作成可能です。
主人公の特徴や物語の舞台・世界観を簡潔にまとめて、相手が書き出しを作りやすいように配慮しましょう。
小説の冒頭の書き出しだけでなく、タイトル・あらすじも面白さを重視しよう
読者の興味を引き、実際に本編を読んでもらうためには、冒頭の書き出しを面白くすることが大切です。
しかし、小説タイトル・あらすじの方が、重要度は上です。
いくら冒頭の書き出しが面白くても、その前の小説タイトル・あらすじの段階で、読者が「なんか面白く無さそう。読むだけ時間の無駄だな」と判断したら、冒頭すら読まれません。
新規読者を獲得することについて、小説タイトルが最も重要です。
その次にあらすじ、さらに次に冒頭が重要・・・・・・という順番です。
効率よく読者を増やすなら、小説タイトル・あらすじも、しっかりと面白い内容にする必要があります。
読者の興味を引ける面白い小説タイトルのつけ方・決め方は、こちらの記事で解説しています。
読者の興味を引ける小説あらすじの書き方は、こちらの記事で解説しています。
小説の冒頭の面白い書き出しのコツまとめ
- 小説の新規読者を獲得するためには、冒頭の書き出し段階で「この物語は面白そうだ!」と思わせられることが重要。
- 小説の冒頭の書き出しが退屈だと、読者から「この物語は面白くないだろうな」という偏見を持たれる。最悪の場合は、読むのを止められてしまう。
- 小説の冒頭の書き出しは、いきなり衝撃的な場面を持ってきて、読者に興味を植え付けることが鉄則。
- 人間が好奇心を持つ情報の種類
- 恐怖(不気味・グロテスク・怪奇事件など)
- 反社会的(犯罪・禁止された物など)
- 謎(怪奇現象・意味深長な発言など)
- 闘争(乱闘・死闘・試合など)
- 珍事(笑いを誘う ありえない出来事など)
- 性的興奮(性的描写など)
- 文学作品の書き出しを読んでも、現代の娯楽市場では通用しない。
- 物語の早い段階で、主人公が誰なのか、どんな世界観・舞台なのかを明らかにしておくこと。
- 小説の冒頭の面白い書き出しを効率よく学ぶ方法は、小説家になろう日間ランキング掲載作品の冒頭の書き出しを眺めることがオススメ。
- 小説の冒頭だけでなく、小説タイトル・あらすじも、面白い内容にしよう。