どうも、ノマドクリエイターのショウヘイ( @shohei_creator )です。
多くの物語の登場人物には、特定の型が見られます。創作業界では、アーキタイプ(元型)と呼ばれるものです。
今までは、アーキタイプとして、ヒーロー(英雄)・使者・賢者・門番・影・変化する者・トリックスターなどが挙げられきました。
しかし、ここ最近では、新たに『ヴァージン(処女)』というアーキタイプが提唱されました。
男性主人公に見られる英雄とは異なり、ヴァージンは『女性の主人公』に見られるアーキタイプです。
今回の記事では、主人公の女性性を象徴するアーキタイプのヴァージンについて、詳しく紹介していきます。
なお、総合的なキャラクター設定論については、小説・ラノベのキャラクター設定の作り方にて、詳しく解説しています。あわせて、ご覧ください。
アーキタイプ(元型)とは
ヴァージンの説明に入る前に、そもそもアーキタイプという言葉を知らない人もいるでしょう。まずは、アーキタイプについて簡単に説明しておきますね。
アーキタイプは、もともとは心理学者のカール・ユングが提唱した概念であり、心理学の用語です。
ユングは、人間の内面を『意識』『個人的無意識』『集合的無意識』の3つに分けました。
『意識』は、いわゆる顕在意識のことで、私たちが認識できる思考・記憶・感情の領域です。
人間が五感で得た情報は、全てが『意識』に留まるわけではありません。本当に必要な情報を覗き、残りは『個人的無意識』という領域に蓄積されます。『意識』領域で抑圧された感情や記憶は、この『個人的無意識』に流れ着きます。
『集合的無意識』は、大昔の先祖から受け継いできた意識です。人間の代に留まらず、古代のアメーバの時代からの意識も蓄積しているとも言われます。『集合的無意識』については、多くの人々が共有しているものです。アーキタイプは、この『集合的無意識』から出現するものなので、誰をも惹きつけるのだろうと考えられています。
ヴァージンとは|女主人公のアーキタイプ
ヴァージンは、女主人公のアーキタイプとして提唱された概念です。
今まで、物語の主人公と言えば、男性が主流でした。そのせいか、主人公に該当するアーキタイプは、ヒーロー(英雄)しか提唱されていません。
しかし、物語の主人公は、みな男性ばかりではありません。また、いつも異国へ冒険に出掛けるわけでもありません。
おとぎ話に登場する女主人公は『一国の姫』または『姫になる前の一般人』が多いです。悪しきドラゴンを倒すために、王国の外へ旅に出掛けたりしません。
はじめは窮屈な人間関係に閉じ込められていたり、周囲が求めるままに流されていたりしますが、とある好機に恵まれることで、自分が本当に望んでいる『理想の自分』になるために動き出します。
女主人公は、自分の身の回りの人間関係に働きかけることで、自身の自己実現を目指そうとします。
ヴァージンとヒーローの違い
ヴァージンもヒーローも、どちらとも主人公に代表的なアーキタイプです。
一見したところでは、ヴァージンが女主人公、ヒーローが男主人公というように考えられそうね。けれど、ヴァージンの役割を果たす男性もいれば、ヒーローの役割を果たす女性もいます。
ヴァージンとヒーローでは、主人公が目指そうとしている目的地が違います。
分かりやすいように、ヴァージンとヒーローの特徴を並べた表を作りました。
ヴァージン | ヒーロー | |
問題の所在 | 自分の内側 | 自分の外側 |
解決方法 | 周囲の人物から 協力してもらう | 害をもたらす 元凶を倒す |
目的地 | 理想の自分になって 自己実現の喜びを得る | 問題を解決することで 今よりも成長する |
原動力 | 理想の自分になりたい | 自己犠牲の大義 |
戦いの舞台 | 生まれ育った家庭・王国 | 見知らぬ異国 |
協力者 | 友人 | 同志 |
失敗の代償 | 失望、狂気、自殺 | 臆病、死 |
ヴァージンの旅路|自己実現の 13 ステージ
神話の法則(ヒーローズ・ジャーニー)では、ヒーローの旅路の段階として、全 12 ステージが提唱されてきました。
それを下地にしたのか、ヴァージンの旅路は、全 13 ステージが提唱されています。
ヴァージンの旅は、周囲に存在(家族など)に依存している状態から始まり、最終的に『周囲を変えることで、さらに自己実現も果たす』という状態を目指します。
以下、ヴァージン旅路である全 13 ステージです。
- 依存の世界
- 服従の代償
- 輝くチャンス
- 衣装を着る
- 秘密の世界
- 適応不能になる
- 輝きの発覚
- 枷を手放す
- 王国の混乱
- 荒野をさまよう
- 光の選択
- 秩序の再構築
- 輝く王国
ステージ1|依存の世界
ヴァージンは、物語の最初では、周囲に依存した世界に住んでいます。親に養われていたり、制度や文化に身を守られていたりする状態です。
ヴァージンが依存している世界は、基本的に善良な環境です。息苦しくはありますが、身の安全や一定の生活の質は保証されています。
ヴァージンは、依存した世界に愛着を持っているので、渋々でも現状維持を選び続けます。ヴァージンが依存の世界に留まる理由は、大きく分けて、次の4つです。
- 生きるため
- 物語の始めでは、ヴァージンは幼児や少女の段階です。保護者の支援なしには、生きていけません。たとえ服従を要求されたり、嫌がらせをされたりしようと、その場から離れるわけにはいきません。突き放されようものなら、意地でも食らいつきます。
- 社会の慣習
- 外部と交流の少ない閉鎖的な村や町では、慣習や伝統を重んじています。たとえ気に食わない点があろうとも、慣習や伝統に従っている限りは、その地域の人々から仲間と見なされて、外的から守ってくれます。
- 守ってもらうため
- 自立して働ける年齢になっていたとしても、人間関係などの脅威から身を守るために、今ある環境に留まろうとします。【白雪姫】の物語では、白雪姫は、継母の指示を受けた猟師に殺されそうになりました。猟師に見逃してもらえた白雪姫は、家事することを対価に、小人の家に留まらせてもらいます。
- 愛されるため
- 誰かに愛される喜びを手放したくなくて、依存の世界に留まろうとします。愛を望む対象は、両親であったり、継母であったり、意中の男性だったりなど、さまざまです。
ステージ2|服従の代償
ヴァージンは【依存の世界】に留まることを選んでいましたが、その代わりに、さまざまな苦難に耐え忍ばなければいけません。
常に周囲の望む自由を演じ続けなければいけないヴァージンは、『現実の自分』と『本心が望んでいる自分』の違いに気付いていますが、まだ行動を移せずにいます。
【依存の世界】に留まるヴァージンには、次の4つの場合のどれかに位置します。
- 真の自分の姿に気付けない
- 周囲の求める自分であり続けた結果、『本当は自分がどうありたいか』という理想像すら描けなくなっています。生き甲斐の無い日々は、ヴァージンから生きる活力を奪い取ります。
- 限られた世界の人生に甘んじる
- 「こうなりたい!」という夢は抱いていても、実現の方法が分からないか、もしくは踏み出す勇気が湧きません。夢と現実の板挟みにあって、悶々とした日々を過ごすことになります。
- 奴隷のように奉仕している
- 周囲の人々や制度の言いなりになっていると、奴隷のように仕えることを求められます。『他者への奉仕』が『他者からの愛を得る手段』となっていた場合は、奉仕の泥沼に沈んでいきます。
- 危険な精神状態に置かれる
- 自分の意志に従うことを放棄した結果、どんどん自尊心が低下します。自分をぞんざいに扱うようになり、売春や薬物に走りかねません。悪化した先には、自殺が待ち受けています。
ステージ3|輝くチャンス
ヴァージンは、いつまでも【依存の世界】に留まれません。何かのキッカケを得て、『自分が本当に手に入れたいもの』に気付くからです。
この段階では、まだ【依存の世界】から飛び出しません。少し足を踏み入れる機会が提供されるだけです。
この次のステージにて、ヴァージンは、自分が輝ける世界の片鱗を味わえます。たとえ片鱗であっても、ヴァージンの心に光を宿してくれます。
ヴァージンが【依存の世界】から足を踏みだすチャンスは、次の5つの場合に分けられます。
- 運命に導かれる
- 偶然の出来事が積み重なった結果、特定の場所に導かれます。
- 自らチャンスをつかみ取る
- 【依存の世界】に身を置いていても、積極的にチャンスをつかもうと努力するヴァージンの場合です。実行に勇気は求められますが、そこまで困難な問題ではありません。ヴァージンは果敢に踏み出します。
- 力を貸してもらう
- 日頃から努力していて、かつ運に恵まれた場合です。有名人や天使、不思議な道具など、強力な存在がヴァージンに力を貸してくれます。
- 誰かのために立ち上がる
- 大義や慈愛の衝動に従って、誰かを助けるために動き出す場合です。
- 老婆のアーキタイプに応援される
- 老婆のアーキタイプとは、いわゆる賢者のことです。ヴァージンの解説では、今までのアーキタイプ論と区別するために、賢者のアーキタイプを老婆と呼んでいます。老婆と言っても、男性であってもいいですし、若い人物であっても構いません。ヴァージンに役立つ助言や道具を授けてくれます。
ステージ4|衣装を着る
輝くチャンスを手にしたヴァージンは、自分が心の底で臨んでいる世界へ、一時的に足を踏み入れます。
世界が切り替わる象徴として、化粧したり着飾ったりするなど、ヴァージンの外見に何かしら変化が起きます。これは『依存の世界の自分』を脱ぎ捨てるという意味です。
ヴァージンの外見の変化は、次の4通りです。
- 綺麗になる
- ユング派の分析家ロナルド・シェンクは、著書【 The Soul of Beauty (美の魂)】にて『人が美しくなるのは、内面が外見に反映された時ではないか』と述べています。ヴァージンの外見が綺麗になることは、内面に秘められていた美しさを表に出したという象徴です。
- 新たな衣服や装飾品を使い始める
- 新たな衣服や装飾品とは、ヴァージンの夢を叶える手段や意識を変革する小道具です。巫女が神懸かりする時は、酒を呑んで酩酊したり、祭神を象徴する仮面を被ったりします。酒も仮面も、意識変革をもたらす自己暗示の道具です。
- 個人的なファッションショーに挑む
- 『真の自分の姿』を表す衣装に身を包んで、人々の前に姿を現します。最初は上手くいきませんが、周囲の反応を観察して修正を加えることで、より洗練された状態に近づきます。人々の前に姿を現さずとも、鏡に映った新たな自分の姿を確認して、それが『真の自分』にふさわしいかどうか、自己判断します。
- 今までの衣服を脱ぎ捨てる
- 【依存の世界】を象徴する衣服を脱ぎ捨てることで、『偽りの自分』からの脱却を図ります。従属を意味するメイド服を脱ぎ捨てて、1人の人間であることを自分にも他人にも再確認させるなど。
ステージ5|秘密の世界
ヴァージンは、真の自分でいられる【秘密の世界】を見つけて、感動を覚えました。しかし、そのことを周囲の人物に打ち明けたら、猛反対を食らうかもしれません。
そこで、【依存の世界】で生活を続けつつも、時々こっそりと抜け出して、真の自分でいられる【秘密の世界】へ遊びに行きます。
ヴァージンは【依存の世界】と【秘密の世界】を何度も行き来することで、自分にとって【秘密の世界】が必要不可欠であることを再認識します。
ステージ6|適応不能になる
何度も【秘密の世界】で時間を過ごしたヴァージンは、もはや【依存の世界】で生活することが耐えられなくなります。
次第に【依存の世界】の住人に不平不満を言うようになり、対立の溝が深まり始めます。
適応不能になり始めたヴァージンは、次のような行動を起こすようになります。
- 無謀な言動に走る
- 真の自分になりたいという情熱が高まり、軽率な言動に走ります。
- 混乱して悩む
- 自己実現が近づくにつれて、【依存の世界】で得ていた何かを失っていきます。それは人々の愛情であり、自分の過去のアイデンティティです。新たな獲得と喪失が繰り返され、ヴァージンは葛藤します。
- 周囲から注目されてしまう
- ヴァージンの生き方に輝きが増すにつれて、自然と周囲から注目を集めるようになります。隠していた秘密が発覚して、後戻りのできない波乱に巻き込まれます。
- 難しすぎて無理だと言う
- 新たな世界に踏み出すと、さまざまな困難がヴァージンの前に立ち現れます。【依存の世界】で育ってきたヴァージンは、困難に怖気ついてしまい、再び【依存の世界】に戻ろうとしてしまいます。
ステージ7|輝きの発覚
ついに【依存の世界】と【秘密の世界】の両立が出来なくなり、2つの世界が真正面から対立します。
ヴァージンは【依存の世界】の住人から非難されたり、罰を与えられたり、最悪の場合は追放されたりします。それが一種の後押しとなり、ヴァージンは自己実現の道を突き進みます。
輝きの発覚が起きる理由は、次の4通りです。
- 輝きが大きくなり過ぎる
- 自己実現のための成長を続けたヴァージンは、もはや【秘密の世界】に収まり切らないほど大きな存在になりました。【秘密の世界】から卒業しなければいけなくなります。
- 状況が変化する
- 状況そのものが変化することで、ヴァージンの【秘密の世界】が破壊されてしまいます。
- 【依存の世界】の住人に気付かれる
- 【秘密の世界】の時間を楽しんでいたヴァージンは、偶然そこに居合わせた【依存の世界】の住人によって、自分の秘密を暴かれてしまいます。もう内緒で【秘密の世界】に訪れられません。
- 協力者に裏切られる
- ヴァージンが【秘密の世界】にいることを内緒にしていた人物に裏切られ、秘密を暴露されたり、罠を張られたりします。
ステージ8|枷を手放す
ヴァージンは。人間としての成長を遂げて、もはや【秘密の世界】には収まりきりません。また、【依存の世界】との確執も深まり、後戻りも出来ません。
ヴァージンは、自己実現へ至るための枷を外して、未来に向かう準備を始めます。
ヴァージンが自らの枷を外す時には、恐怖心との闘いを求められます。
過去の自分が作ったシガラミを断ち切るには、それ相応の困難を乗り越えなければいけません。
- 傷つく恐怖
- 【依存の世界】から旅立つ時には、その世界の人々から避難や迫害されるなど、心身ともに傷つく困難が待ち受けています。どっぷりと【依存の世界】に浸かっているほど、この困難は大きくなります。
- 愛を失う恐怖
- ヴァージンにとって、【依存の世界】の人々から受け取っていた愛は、かけがえのない宝物です。この愛を失う恐怖に勝たなければ、自己実現へ向けて旅立てません。
ステージ9|王国の混乱
ヴァージンが旅立つことで、【依存の世界】の人々(特に肉親)の間に、大きな波紋が生じます。古い秩序が崩壊して、登場人物の対立は激しさを増します。
ヴァージンの肉親は、彼女を元いた世界に連れて帰ろうと必死になります。ヴァージンが肉親と精神的な闘いを繰り広げる場面は、ヴァージンにとって最大の葛藤を生み出します。
ステージ 10 |荒野をさまよう
【依存の世界】からも【秘密の世界】からも旅立ったヴァージンは、戸惑いと苦労に満ちあふれた荒野に迷い出ます。成功への具体的な道標はありません。
己の無力さに打ちひしがれながらも、自らの可能性を信じて、ヴァージンは厳しい環境の荒野を歩き続けます。理想の自分になるために。
ステージ 11 |光の選択
辛く苦しい荒野を進み続けるヴァージンは、やがて光り輝くような体験に巡り合います。自分が望んでいた生き方の実現です。念願の理想を叶えて、ヴァージンの喜びは最高潮に至ります。
ステージ 12 |秩序の再構築
自分の理想を叶えたヴァージンは、ありのままの自分を【依存の世界】の人々に受け入れてもらおうと、彼らに挑戦します。
【依存の世界】の人々は、成長したヴァージンのことを認めて、再び共同体の一員としてヴァージンを向かい入れます。【依存の世界】の秩序が解体され、成長したヴァージンの価値観を取り入れて、新たな秩序に再構築されます。
ただし、すでにある秩序が解体される時には、必ず抑止力が起こります。成長したヴァージンの価値観を受けいれることを拒み、ヴァージンを潰しにかかります。
ヴァージンは、敵と直接 戦うことを避けます。この時、敵と戦って秩序の再構築を手伝う存在は、ヴァージンを支援者であるヒーローです。ヒーローは、ヴァージンの恋人でもあれば、両親や教師であったりもします。ヒーローの手を借りて、ヴァージンは秩序の再構築を完了します。
ステージ 13 |輝く王国
ヴァージンは、元いた世界に帰って来られました。人々は、ヴァージンの生き方を認め、ありのままの彼女を受けいれてくれます。
秩序が再構築された時、人々は『新たな秩序がもたらされて良かったんだ』と気付きます。その結果、次のようなことが起こります。
- 世界に停滞をもたらした原因が判明して、除外される
- 継母の嫉妬や父権支配、時代遅れの制度などが除去されます。社会の秩序は、より健全さを増します。
- 新しい価値観と生き方がもたらされる
- ヴァージンによって新しい風がもたらされたことで、共同体に今までにない価値観や生き方が湧き起こります。ヴァージンに勇気づけられ、己の理想を叶えるために行動する人が続出します。
- 無条件の愛の自覚が絆を強化する
- 最初の頃の【依存の世界】は、ヴァージンに対して条件付きの愛を与えていました。けれど、成長したヴァージンによって秩序が再構築されたことで、無条件の愛を与える喜びを知りました。以前よりも、ヴァージンと【依存の世界】の間に、強い絆が結び直されます。
まとめ
この記事の内容のまとめです。
- アーキタイプは、人間の『集合的無意識』に見られる、物語の登場人物の型。
- ヴァージンは、周囲に影響を与えることで自己実現を目指す主人公のアーキタイプ。おとぎ話の女主人公が該当しやすい。
- ヴァージンとヒーローの違いは、向かう目的地の方向。ヴァージンの場合は、目的地は自己実現であり、己の内側に向かう。ヒーローの場合は、目的は問題を解決する過程で得られる人間的成長であり、己の外側に向かう。
- ヴァージンの旅路: 13 ステージ
- 依存の世界
- 服従の代償
- 輝くチャンス
- 衣装を着る
- 秘密の世界
- 適応不能になる
- 輝きの発覚
- 枷を手放す
- 王国の混乱
- 荒野をさまよう
- 光の選択
- 秩序の再構築
- 輝く王国