どうも、ノマドクリエイターのショウヘイ( @shohei_creator )です。
今回の書評で紹介する創作資料は、榎本秋の著作【ライトノベル新人賞の獲り方】です。
本書には、ライトノベルの新人賞に的を絞り、どういった戦略で応募作品を書けばいいのかについての手引きが掲載されています。
新人賞の下読みや選考委員が、何に着目して応募作品を審査しているのかについても、各選考段階ごとに記載されています。『商品としての物語を作る』という意識の薄い人にとって、この部分の記載内容は、とても役立つことでしょう。
作家・文芸評論家。
二松学者大学文学部非常勤講師。
アミューズメントメディア総合学院ノベルス学科、ノベルス専科継続コース、並びに大阪アミューズメントメディア専門学校ノベルス科、キャラクターデザイン学科講師。
東放学園映画専門学校小説創作科、アニメーション映像科講師。
専門学校日本漫画芸術学院ライトノベルコース、並びに専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校ライトノベル科カリキュラム監修。
目次
本書の内容を大まかに把握できるよう、目次の記載を引用しました。
序章:イントロダクション
☆ライトノベル作家になるには
☆一次選考
☆一次選考を突破するためには
☆二次選考
☆二次選考を突破するためには
☆最終選考
☆審査員の情報
☆落選作品を手直しして応募しない
☆大事なこと
☆やってはいけないこと、気をつけたいこと
第1章:読者を意識してますか?
☆読者が読みたい作品
☆自分が読みたい作品
☆自分が読みたい作品――その2
☆それはライトノベルか?
☆ジャンルを考えてみる
☆年齢と興味
☆年齢と興味――その2
第2章:応募先に適していますか?
☆少年向けか、少女向けか?
☆少年向けか、少女向けか?――その2
☆新人賞研究
☆新人賞研究――その2
☆各レーベルの特徴を把握する
☆流行を追いかける、先読みする
☆レーベルの枠を飛び出す
☆レ―ベルの枠を飛び出す――その2
第3章:三十文字でキャッチをつけられますか?
☆キャッチとは何か
☆既存のキャッチを観察する
☆ありきたりなキャッチ
☆ありきたりなキャッチを避けるには
第4章:四〇〇文字で説明できますか?
☆書きたいものを短く伝える
☆書きたいものを短く伝える――その2
☆まずはテーマを作る
☆まずはテーマを作る――その2
☆テーマを膨らませる
☆テーマを膨らませる――その2
☆作品としての強度を作る
☆作品としての強度を作る――その2
☆書いておきたい内容
☆書いておきたい内容――その2
☆書いておきたい内容――その3
☆要約の練習方法
第5章:キャラクターの魅力はありますか?
☆共感
☆憧れ
☆世の中には「かっこよさ」と「かわいさ」が溢れる
☆世の中には「かっこよさ」と「かわいさ」が溢れる――その2
☆現実とフィクションの違い
☆恋か仕事か
☆恋か仕事か――その2
☆セリフに魂を込めよう
第6章:オリジナリティはありますか?
☆オリジナリティとは
☆誰もやらないこと、誰もやれないこと
☆オリジナルとパターン
☆オリジナルとパターン――その2
☆オリジナリティはマイノリティから
☆オリジナリティはマイノリティから――その2
第7章:世界設定は辻褄が合っていますか?
☆世界設定が必要な理由
☆メルヘンからの脱出
☆メルヘンからの脱出――その2
☆その世界の歴史を確かめよう
☆世界設定の修正と変更
☆生活感を考えよう
☆生活感を考えよう――その2
第8章:文章は読みやすいですか?
☆一文の長さ
☆見直しの時に注意する点
☆伝わりにくい文章とは
☆つっこみと興味
☆ガイドの不足
☆説明の順番
☆書きたいことをまとめてみる
☆アニメや漫画とは違う
☆文章だから表現できること
第9章:ビジュアル意識してますか?
☆ライトノベルのビジュアル力
☆ライトノベルのビジュアル力――その2
☆キャラのビジュアル
☆情景のビジュアル
☆情景のビジュアル――その2
☆印象深いシーンを作る
☆印象深いシーンを作る――その2
第 10 章:推敲ちゃんとやってますか?
☆ミスには濃度がある
☆見落としがちなミス
☆説明は足りているか
☆説明は足りているか――その2
☆どこまで修正するかを考える
☆どこまで修正するかを考える――その2
☆自分の作品をほめてみよう
☆自分の作品をほめてみよう――その2【出典元】
著者:榎本秋 表題:ライトノベル新人賞の獲り方 P4-6 出版元:総合科学出版 出版年月日: 2017 年 3 月 13 日
本編の内容
本編の内容を段階に紹介しつつ、個人的な意見も書き添えていきます。
【序章:イントロダクション】
序章で注目すべきは『一次選考~最終選考について、どんな点が審査対象に見られているのか』という情報です。各選考段階ごとに、落選原因と選考を突破するコツが紹介されています。
まだ新人賞に1度も応募したことが無い人にとっては、序章の記載内容は、とても為になります。これを知っておくだけで、『趣味の小説を書く』から『商業用の小説を書く』という意識に切り替わることでしょう。
【第1章:読者を意識していますか?】
第1章では、『読者がいることを前提にした応募作品づくりの重要性』について説明されています。
新人賞の各選考を突破していく応募作品は『商品としての価値が高い』ということです。応募作品を商業出版する以上、読者が本を買ってくれなければ、出版社は儲かりません。それなので、きちんと想定読者を楽しませることを追求している応募作品は、必ず各選考を突破していけます。
第1章では、さらに『応募作品のオリジナリティの重要性』についても触れています。
小説やライトノベルは、お菓子のように、食べたら消えるものではありません。何度でも何度でも味わうことが出来ます。だからこそ、同じ味わいの物語は、2つ以上は求められません。1つだけで充分です。
新人賞では、応募作品のオリジナリティが求められます。既存作品と違う何かが無ければ、わざわざ商業出版する甲斐が無いからですね。それなので、何かの二番煎じや後追い作品は、最終選考に残りません。よくても、二次選考の段階で切り捨てられます。
【第2章 応募先に適していますか?】
第2章では、『出版社のレーベルが求めている作風』と『応募作品の作風』を合わせることを推奨しています。
極端な例を挙げるなら『少女向けレーベルの新人賞に、主人公が男性の応募作品を送るな』ということですね。
レーベルには、レーベルが作ろうとしているブランドイメージがあります。競合他社と差別化を図ることで、より自社の商品が売れやすくなるからです。
たとえば、同じコーラ飲料でも、『ザ コカ・コーラ社のコーラ』と『ペプシコ社のコーラ』があります。俗にいう、コカコーラとペプシコーラですね。
ペプシコーラは、コカコーラにコーラ市場の売り上げで負けていました。コカコーラの方が広く認知されていたので、みなコカコーラの方を買っていたからです。
ペプシコ社は、味ではコカコーラに巻けていないと考えていました。そこで、街を歩く人を引きとめて、目隠しした状態でコカコーラとペプシコーラを試飲してもらいました。そして、どちらの方が味が良かったのか、アンケートを取ったのです。その結果、ペプシコーラの方に票が集まりました。
ペプシコ社は、アンケート結果を公示して『ペプシコーラは、コカコーラよりも美味しい』と宣伝しました。『味が優れているコーラ』というブランドを作って、コカコーラと差別化を図ったわけです。コーラに味の良さを求めている人は、ペプシコーラを選んでくれると期待できます。
自社のブランドを強化して、他者と差別化することは、企業利益を増やしていく上で重要です。ライトノベルのレーベルにしても、このことは同じです。だから、自社レーベルのブランドを強化してくれる応募作品は、選考委員から歓迎されます。
ただし、本書では、レーベルの求める作風に迎合しつつも、今までにない作品を生み出すことの重要性についても言及しています。オリジナリティですね。レーベルに合う作風であることは大切ですが、それが『過去の受賞作に酷似する』ようであれば、商品としての価値が薄くなります。傾向と対策に意識を奪われるあまり、オリジナリティを失ってはいけません。
【第3章:三十文字でキャッチをつけられますか?】
第3章では、応募作品にキャッチ……つまり『新規読者の興味を引けるかどうか』という発想を持つように促しています。
本書ではキャッチという言葉で表現されていますが、これは作品のコンセプトのことですね。
コンセプトとは、物語のあらすじを数十文字の問い掛け形式で表したものです。コンセプトは問いであり、その答えが本編という位置付けです。
たとえば『片足の腱が切れてしまって走れない男性は、周囲の人々の協力を得ることで、約 40km のフルマラソンを見事に踏破できるだろうか?』という文章がコンセプトですね。主人公がフルマラソンを踏破できるか否かの答えは、本編で明かされます。
コンセプトは、物語の要約でもあります。優れたコンセプトは、優れた物語を生み出す基盤となります。本書がキャッチの重要性を説いている理由は、これにあります。
物語のコンセプトについては、小説・ラノベのコンセプトの考え方 & 作り方で解説しています。コンセプトについて学びたい場合は、ご覧ください。
【第4章:四〇〇文字で説明できますか?】
第4章では、『物語のプロットを 400 文字で表現すること』について、論が展開されています。
私が見た感じでは、 400 文字が意味するところは、新人賞の応募作品に付けるあらすじ(梗概)のことのように感じました。ただし、あくまでも作品の出来不出来を把握するための手法として『 400 文字で表現しなさい』と提案しているようですね。
本書では、物語のあらすじを説明する 400 文字で、いかに魅力的な物語であると感じさせられるかを重視しています。そのための方法として、テーマや世界観、キャラクター設定、キャラクターの成長と衝突などが挙げられています。
【第5章:キャラクターの魅力はありますか?】
第5章では、登場するキャラクターに、どんな設定を付けるべきかについて書かれています。
流し読みした限りでは、キャラクター設定の要所を押さえている内容なので、キャラクター設定の作り方を学びたい人には役立つでしょう。
ただし、本書の第5章は、約 20 ページしかありません。より詳細なキャラクター設定の方法を学びたい場合は、キャラクター作りに特化した専門の創作資料を探すことをオススメします。
キャラクター設定の作り方については、小説・ラノベのキャラクター設定の作り方にて、いくつかの創作資料で学んだキャラクター設定づくりの方法をまとめています。興味があれば、ご覧ください。
また、主人公の作り方については、小説・ラノベの主人公設定の作り方という個別記事を作成しました。こちらでは『主人公の4つの型』や『読者を考慮した、主人公づくりの手順』などを掲載しています。
【第6章:オリジナリティはありますか?】
第6章では、物語にオリジナリティを生み出す方法について書かれています。
ざっくりと内容を説明すると、『今まで誰も試さなかった組み合わせに挑戦しろ』と『今まで体験したことのない物事に挑戦して、多用な経験を身に付けろ』と言う感じですね。
実際のところ、オリジナリティに満ちたアイデアを出す方法というのは、上記の2つくらいなものでしょう。真反対な物同士を組み合わせて、意外な物が生まれるかどうか実験する。多用な人生経験を身に付けて、作家としての引き出しを増やしおく。あとは、アイデアが生まれやすくなるように、純粋な趣味を楽しんでリラックスしている時間を設けるくらいでしょうか。
【第7章:世界観設定は辻褄が合っていますか?】
第7章では、整合性の取れた世界観を作るために、どこに注意すべきなのかについて書かれています。
ざっと読んだ感想としては、要点は書いてあるものの、情報が不足しているという印象です。紙幅の都合で仕方ないのでしょうけれど。
世界観設定の詳しい作り方については、小説・ラノベの世界観の作り方という記事にまとめています。
世界観を固めるための質問リストや役立つ無料ツールも紹介しているので、必ず役立つでしょう。
【第8章:文章は読みやすいですか?】
見出しの通り、文章を読みやすくする方法について触れられています。
この章についても『新人賞の攻略方法を総合的に紹介するために付けた』という印象が強く、情報量が不足しています。どうしても文章作法・執筆技術に自信が無いようでしたら、小説の文章について解説した専門の創作資料を探すことをオススメします。
小説の文章作法・執筆技術については、小説・ラノベの書き方講座|初心者も安心!文章作法を基礎から攻略という記事にまとめています。
こちらの記事は、小説の文章に関する本を何冊も読み比べた上、重複する内容を除き、【文章規則・読みやすい文章作法・上手い文章を書く執筆技術】の3構成で体系化したものです。
【第9章:ビジュアル意識してますか?】
第9章では、文章に『視覚で分かる情報を入れること』について推奨しています。目に光景が浮かぶような文章を書け、ということですね。
心構えとして『書籍化された際の表紙・挿絵のことを考慮すること』が提案されています。
キャラクターの書き方については、顔つきや服装、細かな服飾品の色などが触れられています。
【第 10 章:推敲ちゃんとやってますか?】
第 10 章では、推敲する時に注意すべきことが説明されています。
とりわけ、風景やキャラクター、世界観の説明描写の過不足について、ページが割かれています。それ以外の注意点は、さらっと触れられているのみです。
推敲のやり方については、小説・ラノベの推敲のやり方という記事で説明しています。
推敲する時に注意すべきことのチェックリストの他、推敲に役立つ無料アプリ & ツールも紹介しています。
まとめ
【ライトノベル新人賞の獲り方】についてですが、新人賞の突破 & 書籍化レビューを目指す人は、買って読んだ方がいい書籍と言えそうです。特に、下読みと選考委員が応募作品の何に注目しているのか、把握しておくべきです。
とは言え、紙幅の都合により、1つ1つの章の情報量に物足りなさを感じます。本書を『新人賞を攻略するために必要となる情報の紹介本』として持っておき、特定の創作ノウハウに特化した別の創作資料で情報を補う……という使い方がいいですね。
本書の内容を含め、小説・ラノベの新人賞の取り方という記事にて、新人賞の攻略方法を詳しく解説しています。興味があれば、ご覧ください。